次の10年に求められること(一の新戦略)

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Next10YearReq_20110522.pdf

「一(いち)」というコンサルティングファームの名前の由来は、

  • ”Only One”:他に類のないユニークさ,
  • “Number One”:第1位であること,
  • “Next One”:次世代を見据えていること、

という経営コンセプトに依っています。
ソフトウェアエンジニアリングの理論と実践的知識をコアにして、2004年に創設以来、ITの見積り評価、開発プロセス改善などのコンサルティングを行ってきました。
今世紀最初の10年間は、新しい時代の幕開けとも呼ぶべき段階です。伝統的企業の改革が進められ、業界構造が変わりはじめ、新しいプレーヤも登場してきています。今後は、従来路線の延長線上や、延命的な施策は影を潜め、新しい発想、新しい世界観、新しいビジネスが求められていくことになるでしょう。
私どもは、こういった次世代へ向けた取り組みの中で、富を生み出し、豊かな社会を実現していくための「ブレーン」の役割を果たしていきたいと考えています。
ITやソフトウェアに限らず、ソフトウェアエンジニアリングの知見が応用できる「デザイン」領域が新たな地平として広がっています。コスト分析や投資評価に代表される経済的な局面では、人や組織を含む「社会」制度を、コード化していかなくてはなりません。
これ等に取り組むには、新しい世界を創出する理論的な基盤が必要です。美しい「空間」の上にこそ、豊かな社会を築いていくことができるのです。

富を生み出す社会のブレーンの役割を果たしていきます
1. デザインのデザイン by 応用ソフトウェアエンジニアリング
2. 社会規範のプログラミング by ソフトウェア社会・経済学
3. 美しい空間の創造 by 数学的アプローチ

デザインのデザイン

「デザイン」という言葉は、建築や工芸をはじめとするあらゆる人工物の制作や開発の世界における創作活動を示しています。モチーフやイメージを形にしていく過程は、人間が作品(アーティファクト)を作る時の中心的な活動です。
ビジネス領域では、より複雑で大きな人工物が対象になるために、デザイン活動の特徴は、個人というよりチームで役割分担して組織的にプロセスが進められていく点にあります。
ソフトウェアエンジニアリングは、個人の技芸としてのプログラミングでは立ち行かなくなったために出現した学問領域です。多くの人々が組織的にソフトウェアを開発する方法やマネジメントの知見が蓄積されています。
この知見を、ソフトウェアを含むより広い分野へ、あるいは、ソフトウェア以外の人工物の世界に応用していくのが「応用ソフトウェアエンジニアリング」です。
一方、ソフトウェア開発の分野では、日々の業務支援、情報管理等の決まり切った同じ問題を解き続けているように思えます。今までにない新しい世界を創造し、未解決の問題領域そのものを提唱するような活動に価値の中心が移っていくことでしょう。
知識主導の社会では、知識を新しい領域に適用し、新しい価値を生み出すデザイン活動そのものをデザインしていくことが求められています。

社会規範のプログラミング

ITやソフトウェア無しでは我々の社会は成り立ちません。ソフトウェアを開発し、保守し、利用していく活動は、関与する人々や組織にとって、費用が発生しますし、投資の対象にもなります。
資本投下、調達、取引、契約といった場面で、ITやシステム開発プロジェクトをマネジメントしていくことは企業収益に直結した経営課題です。
金銭的価値の算定、コスト予測、見積り評価などは、データの裏付けのある科学的手法が地道に確立されてきています。私どもは、この知識体系を「ソフトウェア経済学」と呼んでいます。
経済は、人間の社会活動の一側面に過ぎません。むしろ、社会が主であり、経済はその現れとみなす方が自然かもしれません。
ITやソフトウェアをとりまく環境や状況、ビジネスモデルを起点にして、制度設計や規範設定を的確に行っていくことが、社会全体を豊かにし、関与する人々や組織を正しく導いていくことになるでしょう。

「プログラミング」では、コンピュータへの命令を記述し、それを実行させることができます。社会の規範設定を行うことは、制度設計を行い、規則(ルール)を記述し、それを人々や組織が遂行するという意味で、コンピュータプログラミングのメタファとして捉えることができます。標語的に言えば、
”Social processes are software, too.” と言うとわかりやすいでしょう。
この考えは一つの研究パラダイムとしての提唱です。記述するための言語や実行の仕掛けの探求をも含んでいます。

美しい空間の創造

「抽象の極が具体的事実の思想を統御する真の武器である」というのが、数学史の研究家として名高いモリス・クラインの言葉です。ユークリッド、デカルト、ニュートン、アインシュタインといった偉人たちは、それぞれの時代に新しい理論体系を唱え、既成の呪縛から解放し、ものの見方、世界観を変えてしまうような社会的インパクトを与えました。
特に、「幾何学」は創造的活動の宝庫だと考えています。現在のコンピュータの原理は、フォン・ノイマンの提唱した機構に基づいていますが、他の計算原理があるかもしれません。実世界を認識するもっとエレガントな方法があるかもしれません。このような普遍的な知識の獲得を目指した長期スパンの探求を「美しい空間の創造」と呼んで取り組んでいこうと考えています。ソフトウェアエンジニアリングを基礎づけている第一の学問は、「数学」だと確信しています。

白いキャンバスに自由に描いていく画家のように、数学的な諸概念を使って新しい空間を造ることが最も創造的で知的な活動です。
コンピュータと数学との関係は、今まではどちらかと言うと「代数」との結びつきが強かったのです。数学を活用するという意味では、「形式手法」と呼ばれているアプローチがありました。
プログラムが仕様を満たしていることを証明すること、定式化した仕様をモデル検証によって妥当性を確認するといった事項は、いわば得られた問題を解く行為に関わる活動であって、問題を作ることとはかけ離れたアプローチです。
新しい空間、美しい体系を生み出すために、数学を活用するアプローチは、今まであまり行われてこなかったように思えます。
フォン・ノイマンは、自らの計算原理の提唱時に既に、形式論理学に基づく限り、その発展に限界があるということを見抜いていました。むしろ、解析的、連続的なものを扱えるようにしていかなくては、物理学や経済・社会学的な現象を分析していくことはできません。
ソフトウェアの実行原理、それが置かれる実世界との関わり、言語現象などを基礎づける理論的な枠組み、エレガントで美しい空間を構築していきたいと考えています。

ソフトウェアエンジニアリングとは

ソフトウェア開発におけるさまざまな知見をまとめた学問領域は「ソフトウェアエンジニアリング」と呼ばれています。簡潔に言うと、実世界にある問題を定式化し、ソフトウェアを使って解くための知識を提供しています。
この学問領域は、ソフトウェアが置かれ、稼働する実世界、ソフトウェアづくりに携わる人々やチームからなる人間世界、そして、ソフトウェアの実行そのものを支えているハードウェアやネットワークなどのコンピュータ世界と多岐にわたっています。このように性質の異なる複数の世界を同時に扱っていかなくてはならない難しい領域がソフトウェアエンジニアリングなのです。

応用ソフトウェアエンジニアリング

古来、科学(サイエンス)を実践領域に適用する指向性を持つ学問領域が「応用数学」、「応用物理」などの名称で呼ばれています。
一方、工学(エンジニアリング)は、「航空工学」や「遺伝子工学」などの適用領域を中心として、あらゆる知見を集めていくものです。「ソフトウェアエンジニアリング」は、発祥の経緯としては工学ですが、今や、その知見は、ソフトウェア以外の領域にも役立つものになっています。
別の見方をすれば、「ソフトウェア」という概念が、単なるコンピュータプログラムだけではなく、コンテンツ、メディア、人や組織などの社会システムに至る広範な対象を示すようになってきているのです。

ソフトウェア社会・経済学の試み

「経済」とは、近代資本主義において、生産と消費、市場、分配に関する諸活動を示しています。そこには、コスト、価格、価値の間の複雑な様相があります。
特に、ソフトウェアは目に見えませんし、複雑で変化も激しいために、日用品を販売・購入するように単純な図式でとらえることはできません。
ソフトウェアという難しく、得体の知れないものを対象とした社会・経済活動に関する知識体系の整備を進めています。

天動説から地動説(知働説)へ

コンピュータやソフトウェアの発展は目覚ましいものがありますが、「技術」が中心ではありません。技術が適用され、利用される実世界が中心でなくてはなりません。
ソフトウェアとは、実行可能な知識であり、知識を紡いだ様相であり、常に進化し続け、作ると使うこととは本質的に同じであるといった、新しい見方がこれからの主流になっていきます。この方向は、「知働化」と呼ばれています。
この知働化の観点で、あらゆる理論、実践活動が再構築されていくと考えています。

なぜ「幾何学」なのか

数学者は直感的なイメージで考え、論文を書く時には、形式的な記号を駆使してそれを定式化し、証明し、公表します。
幾何学は空間についての学問です。人間の創造的活動、直感的思考は、おそらく幾何学的であり、私たちの「見る」という概念に直結しています。英語で、“I see.”という言葉にも表れています。
幾何学の次元、対称性、射影、位相といった概念が、物理学や宇宙論といった世界の本質を浮き彫りにする科学と結びついています。
一方、代数学は、時間と関わりを持っており、「計算」に落とし込まれます。すなわち、時間の中に演算操作との関わりを見いだし、公式をつくり、検証していくことが目的です。