23の未解決問題

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PlanQ_20110722.pdf

「一の新戦略」において、今後、探求していく予定の課題、取り組み方などについて断章的に記載しています。

Think towards Wealth of our World.
    富を生み出す社会のブレーンの役割を果たしていきます
1. The Design of Design / Applied Software Engineering
    デザインのデザイン by 応用ソフトウェアエンジニアリング
2. Social Process Programming / Software Economics and Sociology
    社会規範のプログラミング by ソフトウェア社会・経済学
3. Creating Beautiful Space / Mathematical Approach
    美しい空間の創造 by 数学的アプローチ

はじめに

ビジネスドメインとして有望なものは、ずばり「予測」です。従来のソリューションとして行ってきた「IT見積り評価」は、予測技術の一つです。

E: Estimation (予測/予想/予言)
E: Execution (実行/計算)
E: Evaluation (評価)

 天気予報、地震予測、プロジェクト工数見積り、株価予測、GDP予測など多くの取り組みがなされています。競争相手の次の一手を読むこと、次期大統領が誰か、売れ筋商品の選定、投入予定製品のユーザの反応といったものも予測の対象です。未来予測に限らず、観測可能な現象から原因を探ることとか、外部の物理量からシステムの内部で起こっている事故の状況を予測することもあるでしょう。予測は、一つの活動であり、社会に組み込まれます。意思決定のよりどころとなり、経済活動に応用され、組織進化に寄与していきます。
 理論、実践、勘、人間の叡智、コンピュータシミュレーション、過去のデータ実績など予測の方法やよりどころも多種多様です。不完全な情報や隠蔽された状況下での予測も必要なことがあります。解析的な手法、離散的な近似計算、シミュレーション実行によるもの、コンピュータを活用するもの、手計算で済むものなど、方法やアプローチも多様です。
 予測手法は、予測問題そのものを定式化すること(Estimation)、その解を求めること(Execution)、予測結果を評価すること(Evaluation)から成り立ちます。そもそも予測不可能な領域もあるでしょうし、膨大な計算量が必要な場合もあります。予測結果が社会に影響を及ぼし、それが予測そのものに影響を与える場合もあるでしょう。未知でわくわくするビジネスドメインです。

23の未解決問題

以下、予測領域の探求を進めていく際に、検討しなくてはならない事項や方向性を、偉大な数学者ヒルベルトにならって、23の未解決問題として列挙してみました。筆者が知らないところで既に解決されているものもあるかもしれませんし、生きているうちに解決しないものもあるかもしれません。

1. 実行可能な人工物のための世界認識:

世界は複数の個体から構成されています。個体は装置、機械、人、組織などの日常世界での実行単位のこともありますし、仮想的な思考による抽象実体によるものもあります。個体の振る舞いは、いくつかのドメイン(まとまって考えるとよいものの見方)の法則に支配されています。法則には、物理法則、社会・経済法則、認知心理学、行動科学、計算原理などの、学問的な知見もありますし、未だ発見されていない未知の法則もあるでしょう。実行可能な人工物(アーティファクト)をデザインするための、個体−ドメイン−法則を整備していく有効なアプローチや変化のダイナミズムは、未だ解明されていません。
〔ref. M.A.Jackson, “Problem Frames”〕

2. デザイン手法のための意味論的転回:

個体はその実行によって、入力(感覚)と出力(作用)という外界とのインタフェース、そして、入力/出力のフィードバックによる意味の修正計算を伴います。個体が人間の場合には、意味および意味の計算は、外部観測不可能(主観的)で、語り得ないものです。人工物のデザイン活動は、人工物が置かれる周辺の個体である人間の意味の再計算を織り込まなくてはなりません。このような世界観における人工物のデザイン手法は、未だ確立されていません。
〔ref. K. Krippendorff, “The Semantic Turn”〕

3. 理想追求型のデザイン思考:

我々が人工物を作成する方法は、従来の問題解決型、図案表現型、そして、今後探求が必要な理想追求型に分類されます。この中で、理想追求型については、今までにないものを生み出す思考プロセスが求められます。この思考プロセスそのものを、さまざまな概念やその組み合わせから説明する方法があると予想されます。
〔ref. Y.Nagai,et.al., “Concept Generation and Creativity in Design”〕

4. デザインのデザイン:

属人性の排除はどこまで可能か。組織的な創造的活動の方法はあるか。ソフトウェアエンジニアリングでは、多人数で組織的にソフトウェアを作り、維持・保守していく方法を追求しています。利用者世界の問題を仕様化し、それを実現していくマネジメント、開発プロセスの考え方をより発展させ、世界と実行可能知識としてのソフトウェアのあり方を探求していかなくてはなりません。プロトタイピング、スパイラルといった開発プロセスのデザインプロセス版を構成していくことができると思われます。
〔ref. F. Brooks,Jr., “The Design of Design”〕

5. 進化掟理:

ドメインが個体の場合には、学習・進化をしていきます。無意識、暗黙知は、記述可能な形式知として現れることになるでしょう。個体は進化論的な意味での選択的淘汰にさらされます。個体間の統廃合がアメーバのように行われていくことでしょう。遺伝子レベルとでも言うべき存続もあるでしょう。そこには、進化論的なパラダイムでの、さまざまな理論(Theory)や掟理(Theorum)が成り立っていることでしょう。
〔ref. R. Dawkins, “The Greatest Show on Earth: The Evidence for Evolution”〕

6. ネクスト・ソサエティ:

旧来の金銭的価値以外の(主観的)価値が中心になっていきます。組織の構造はピラミッド型からフラット型へ変わり、個人のライフサイクルが中心となっていくでしょう。経済中心から社会中心の世界へ変貌していき、マネジメントの諸概念も経済・社会を総合した見方をしていかなくてはなりません。
〔ref. P. Drucker, “Next Society”〕

7. 社会規範プログラミング:

人間の社会や認識は、複雑の絡み合った言説(ディスコース)からなっています。それぞれの言説は、社会的規範や日常概念による家族的類似性に依存しています。この言語ゲームは、語り得ないものですが、ある部分については記述が可能で、さらに法則や原理があり、マネジメントの対象とすることができると期待しています。
〔ref. L. Wittgenstein, “Philosophische Untersuchungen”〕

8. 金銭経済の限界:

近代資本主義や金銭経済を対象とした経済学では、人間の営みや、富の未来について語ることができません。経済は、社会的な活動の一つの現れに過ぎません。そこでは、貨幣の定義も変わってくるでしょう。信用創造、信頼関係、契約に関わる新しい貨幣概念や、それに関わる新しい経済学が出現してくるのではないでしょうか。
〔ref. A. Yasutomi, “Economics Sets Sail: Towards the Ocean of Creativity”〕

9. 言語ゲーム的ゲーム理論:

ゲーム理論は、プレイヤー、ルール、利得が与えられた時に、そこで起こる現象を分析・予測するものです。数学的な定式化を行って、プレイヤーの戦略や最適な行動や結果を予測します。プレイヤー、ルール、利得は、現実には見えなかったり、ダイナミックに変化していきます。実世界とゲーム理論の定式化との間には乖離があり、これを修正していく方法があるのではないかと考えています。
〔ref. A. Okada, “Game Theory”〕

10. 思考停止の経済学:

予測計算、契約・交渉そのものにコスト(工数)がかかり、これを織り込んだ組織化が図られていきます。知的探求も同様に、探求の範囲が決められ、その外側は思考停止をして、目的達成のために捨象する領域があります。知識は権威付けや所与として受け入れることが行われます。計算そのものを、計算量を予測することによって、制御する理論が必要だと思われます。
〔ref. P.Milgrom, “Economics, Organization and Management”〕

11. 技術経済学:

商品力は経済を拡大し、生産力は経済を縮小させます。富を生み出すのは、技術しかありません。近代資本主義の経済論はモノの経済でさえ旨く説明できませんでしたが、知識の経済にはほとんど理論整備がなされていません。
〔Ref. S.Domen, “A Big Mistake of Economics”〕

12. 場の経済学:

インフラ、プラットフォーム、ソーシャルネットワークなどの技術、社会、経済活動の場が発生し、それが維持される機構が解明されなくてはなりません。伝統領域での関所的な役割を果たす権威付けの機構、オープンソースやコミュニティ活動での自己組織化の機構、そしてその上での経済上の法則が存在するように思えます。
〔I.Nonaka, “Management Flow”〕

13. 並行プロセスの良構造:

CSP, CCSを始めとする並行プロセスの理論は、ソフトウェアサイエンスの基礎理論の一つです。しかし、プログラミング言語の3基本構造のような、ソフトウェアエンジニアリングに役立つような良い構造は未だ発見されていません。関数等価性とソフトウェアクリーンルーム手法を基礎づけている並行プロセスの基本構造が望まれています。
〔Ref. C.A.E Hoare, “Communicating Sequential Process”〕

14. 計算原理:

ドメインの動的な振る舞いは、フォン・ノイマン型の計算に従うもの(従来のコンピュータマシン)もありますが、古典論理と離散的なアプローチでは限界があります。実世界の性質を連続的、解析的計算原理に従うものもあるのではないかと確信しています。
〔ref. S. Smale, et.al., “Differential Equations, Dynamical Systems & An Introduction to Chaos”〕

15. 複雑系

収束と発散、カオス、複雑系などの振る舞いの種類を判断する方法と、複雑なものを複雑なまま統御する手法が存在するのではないかと思われます。ソフトウェア、および、そのプロセス/プロジェクトは、複雑系によって説明できる諸現象があるのではないかと思われます。
〔ref. K. Aihara, “Chaos in Nurons”〕

16. 幾何学的イメージ:

問題解決型とは異なり、理想追求型では、世界を構成する公理(公準)を設定し、その上に体系を創造していかなくてはならなりません。新しい体系は、幾何学的イメージスキーマに従い、これを代数や計算理論によって実証するパラダイムにシフトしていくと考えられます。
〔ref. M. Coxeter,et.al., “Introduction to Geometry”〕

17. 予測計算:

予測問題は、世界の対称性の発見に依存しています。特に、時間対称性は予測問題の解を得る必須条件です。ソフトウェア、知的活動における現象を予測するための、時空間の設定、対称性の発見が、新しい予測計算の方法を構築していくでしょう。
〔ref. D. Orell, “Apollo’s Arrow: The Science of Prediction and the Future of Everything”〕

18. 不確実性の理論・哲学:

ソフトウェア、知識活動、プロジェクトマネジメントなどの領域において、量子的事象、確率的事象をそのまま計算する方法論と哲学は確立されているとはいいがたい状況にあります。

19. メトリクス:

空間に測度を導入する方法には多くの方法があります。単純な数え上げ、距離、確率、微分、積分、時間経緯など予測やマネジメントのために的確なメトリクスが求められます。ソフトウェアやプロジェクトにおいても、まだ多くのメトリクスが発明されると思います。

20. 構造の尺度:

モジュール、あるいはプロセスの強度や結合度、グラフの複雑度といった構造の善し悪しを判断する尺度や、その上の定理・法則が存在するものと思われます。

21. 情報空間の法則:

不変量は何か。連想検索等による尺度設定やその上の定理・法則が存在するものと思われます。

22. 美の尺度:

美しいと感じることに対する一般的尺度はあるのでしょうか?科学・技術と芸術、客観と主観、文化、社会的コードとしての美について探求してみましょう。

23. タイムマシンの実現可能性:

すべての予測や予測可能性の判断が人間の行動の意思決定に組み込まれた社会は、どのような世界になるのでしょうか?